木曜日, 2月 26, 2009, 08:53 AM - 2009年02月
近鉄特急の中で新聞を読んでいると、後ろの席から若い女性の会話が聞こえてくる。 何気なく聞いていると、どうやら受験のことを話しているらしい。「前期試験はちょっと失敗してしまったけど、後期でがんばろうと思っている・・・」などと言っている。そう言えば、今は国立大学の受験の時期なんだ。しかし、話の中身はどうでもいいのだけれど、彼女たちの声の響きは何と耳に心地よいのだろう。実にうっとりとするような陶酔感にひたれるセクシーな声だ。ああ、もうすこしさえずっていてほしい。うん、鳥も異性を引き付けるために鳴き声を発するのだとかいう。さすれば、人間だってアルファー波のような脳に心地の良い声によって異性を引き付けたり、引きつけられたりする本能が生理的に備わっているとしても不思議ではないじゃないか。
そう言えば、最近教育テレビの番組だったかで、人間が異性を好きになる仕組みについてこんな解説をしていた。いわく、「人類には数万年も前から厳しい環境の中でも子孫を絶やさないという種の使命を果たすために、どのような異性に対して好感を持つかというメカニズムを築き上げてきた。男性は、いつ死ぬかもわからない環境の中で自分の遺伝子を残す相手を瞬時に見極めなければならない。その基準は、『女性の体形』だ。つまり、自分の子を宿してくれるかどうか，その体型を見て一瞬のうちに判断する。女性の方は、自分の産んだ子を少なくとも３年間、一緒になって育てることに協力してくれる相手であるかどうか、その信頼性を見極めるために、相手の行動をしばらくじっくりと観察してから判断する」というのだ。
「声」というのも、「一瞬で最適な相手を見つける」という男性の側の判断基準の一つになっているのかもしれないなと思った。まだ、携帯電話もなかった何十年も前に、電話で家内の声を聞いていると、胸が躍り、ワクワクしさえしたことがあったことを覚えている。
電車の降り際に、後ろの座席の女性たちの顔をそっと覗いてみた。もう健やかに眠っている彼女たちは、あたりまえだけれども、まだ十代のあどけなさを残した子供ではないか！こんな子供たちの声に心をときめかせるとは、俺もどうかしている。しっかりせよ！と自分に言い聞かせてまた新聞に目を落とした。
藤井由幸
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月曜日, 2月 16, 2009, 02:05 PM - 2009年02月
昨日のテレビで、京都大学の学生が、大麻所持の現行犯で逮捕されたということが報道されていました。「京大生よ、おまえもか！」と言いたくなるほど、立派な大学に進学した若者が薬物に染まってしまっているようで、誠に残念でなりません。ライオンズクラブでは、各地域の警察署などとも連携して、小・中・高等学校の児童・生徒に対して、「薬物乱用防止教室」ということで、薬物に染まらないように早くから注意を喚起する啓蒙活動を行っています。私もこの趣旨に賛同し、「認定講師」という資格を取って、子供たちへの啓もう活動に参加し、地元の小・中学校での講演も、１年余りの間に５校で行いました。以下は、その内、ある中学校で講演した内容を記録したものです。
**********************
みなさん、こんにちは！
きょうは、四日市ライオンズクラブから、大勢の仲間とともに参りまして、その代表としてみなさんにおよそ１０分ほど、「ダメ。ゼッタイ。薬物乱用防止」というテーマでお話をさせていただきますので、しばらくお付き合いください。
本題に入る前に、今日この常磐中学に来てすぐ気がついたことがあります。それは、みなさんが、「こんにちは！」と大きな声を出して私たちを出迎えてくれたことです。それが、一人や二人ではなくて、あちこちから、また、先生方からも同じように挨拶の声がかかってくるので、大変感心しました。校長先生にお伺いすると、地域ぐるみで挨拶運動をやっておられるということで、ますます感心しました。こういう挨拶がしっかりとできている学校には、「薬物乱用」という悪魔をはねつける力が備わっているのではないか、とさえ思っています。
というのは、挨拶というのは、
「私は、あなたを、大事にかんがえていますよ、敬意を払っていますよ、存在をちゃんと認識していますよ」
ということを声に出して表現するということなんです。英語の文法で出てくる一人称、二人称・・・I，ＹＯＵ、という関係を意識して、あなたを大切に思っていますよ、ということを知らず知らずのうちに言っているんです。挨拶のできる人は、相手のことを大切に思うから、自然と自分のことも大切に思うようになります。だから、自分を大切に思う人は、薬物なんかには絶対に手を出さなくなるんです。
実は、私は市内の羽津町で、繊維関係の小さな町工場を経営していますが、「オアシス」という挨拶運動を約８０名の社員全員で進めています。みなさん、「オアシス」運動って知っていますか？
「オアシス」というのはもちろん、砂漠の中の泉で、すがすがしい響きを持っていますが、ここでは、
オ・・・おはようございます
ア・・・ありがとうございます
シ・・・しつれいします
ス・・・すみません
では、みんなで一度やってみましょうか。ちょっと姿勢を正してください。
私の後について、大きな声で、元気よく言ってください。
オ・・・おはようございます
ア・・・ありがとうございます
シ・・・しつれいします
ス・・・すみません
ありがとうございました。
こんなに元気よく「オアシス」を言ってもらえると、私の話は、これでもう終わった
ようなものですが、付録にちょっとだけ薬物にまつわる私の経験をお話しておきましょう。私は、今の会社で仕事をする前に銀行に勤めていたことがあって、そのときに、海外駐在を経験しました。イギリスのロンドンというところに、５年ほど住んでいたことがありましたので、そのときの話を二つ紹介しましょう。
一つは、オランダの首都アムステルダムでの話です。ロンドンに行ったばかりのころですので、今からもう２５年ほど前の私がまだ３０歳前後のころのことになります。
ロンドンの英会話学校で一緒に勉強したオランダ人の友人と待ち合わせた中心部の公園でぶらぶらと時間をつぶしていますと、ニコニコと笑顔を振りまきながら、今の私くらいのおじさんが近寄ってきて言うんです。
Do you want a bit?
これは、文字通りの意味は「ちょっと、ほしいの？」
ということなので、あまりよく事情の飲み込めない私は、
No, I don't want any.
「いや、何もいらない」とだけ答えて、近寄らないようにしました。でも、あとでオランダ人の友人にこの話をすると、それはたぶん「麻薬を買わないか?」という意味だというんです。
「このあたりには、そういう麻薬の売人という連中が多いから気をつけたほうがいい」
と注意されました。
２５年もまえだと、いかにもそれと分かるおじさんが麻薬の売人だったのですが、近頃はどうもそれが、イケメンのおにいさんであったり、ちょっときれいなお姉さんであったり、また、自分の知っている先輩や友人であったりして、しかも、
「ちょっとだけ試してみない？」 とか、
「気分がすっきりするんだよな」 などと、言葉巧みに誘ってくるんだそうです。
皆さんは、挨拶もしっかりできて、自分を大切にする、相手を大切にする、そして家族を大切にするという気持ちがしっかりしているから大丈夫だとは思うけど、「一度でも甘い言葉に誘われて薬物に手を出したら大変なことになる」という気持ちを強く持って、
No, I don't want any.
といえなくても、
Ｎo! とか、ダメ！ゼッタイ！
とか強く言ってほしいものだと思います。
実は、この話には続きがあって、ロンドンからアムステルダムまで私は愛車のＢＭＷというスポーツタイプの車でフェリーを乗り継いで一昼夜かけて行ったのですが、「行きはよいよい、帰りは恐い」といいますか。イギリス側のドーバーの港にフェリーで着いたときにひどい目にあいました。
何かといいますと、若い私が、高級車のBMWでアムステルダムまで行って帰って来たというので、税関で私自身が麻薬の売人と疑われてしまったのです。それで、税関で取調室のようなところに連れて行かれて尋問は受けるは、私の車はほとんど分解されるかと思うほど、タイヤの中まで徹底的に調べられるは、麻薬犬は出てくるはで、まるで犯罪人のような扱いです。４，５時間たって私の車には、当然のことですが、薬物らしきものは何もないということが分かってようやく開放されました。
その時はずいぶんと不愉快な思いをしましたが、後になってよくよく考えると、「ああ、こうして水際で薬物の侵入を防いでくれているんだなあ」と、税関の皆さんに感謝したい気持ちになりました。イギリスばかりでなく、同じように海に囲まれた日本も税関や、麻薬Ｇメンといわれる人たちの活躍で私たちの安全な生活が守られているんだなあ、と感じました。
もうひとつの話は、ロンドンからの出張でトルコのイスタンブールに行った時のことです。あるセミナーで、当時のオザール大統領と会食をして、充実感にあふれていたのですが、その帰りのイスタンブール空港でのことです。手荷物を預けるために、チェック・イン・カウンターに並んでいると、子供を連れたおばさんがやってきて、小さな荷物を私に差し出して言うんです。
「事情があって、子供の荷物を送れないので、ロンドンまで持っていってくれませんか？御礼はしますから」
親切心を発揮して、一瞬そうしようかとまで思ったのですが、やはりここは「君子、危うきに近寄らず」きっぱりと言いました。
I'm afraid I can't help you.・・・残念ですが、お役に立てません。
これもあとで聞いて、背筋がぞっとしたのですが、こういう風に空港で荷物をあずけられるのは、ほとんどが、「薬物の運び屋」をさせられるというケースなんだそうです。トルコでは、麻薬に対する罰則が非常に厳しくて、持っているだけで終身刑、つまり、一生刑務所に入っていなければいないのだそうです。大統領と会食をしたからといって許されるはずがありません。もし、そんなことにでもなっていたら、家族の悲しみは計り知れません。気軽な気持ちが、本当に危なかったんだ、と改めて近づいてくる身の危険に思いをめぐらした次第です。
最近中国で麻薬の密売に関わったとされる日本人に死刑が宣告されたということがニュースに出ていました。このように、海外では非常に厳しい刑罰が待っていることがある、ということも知っておいて頂く必要があると思います。
ここまで、『薬物』についての話をしましたが、少し、『喫煙』つまり、タバコについてもお話をしておこうかと思います。タバコは薬物というわけではありませんが、皆さんは未成年ですから、もちろん、吸うことはできないし、吸っている人はいないと思います。ただ、あなた方の周りの大人の人で吸っている人をよく見かけるでしょうから、それだけ誘惑も多いと思います。
だけども、タバコは君たちのような大脳の成長期にある中学生･高校生にとっては、特に有害です。自分の頭の成長を妨げる働きがタバコにはあるんだ、ということをよーく意識して、もし誘われるようなことがあっても、ゼッタイにNO！といえる勇気を持ってほしいと思います。
以上色々お話しましたが、私たちのような町のおじさんたちも、みなさんのような若い将来のある人が、薬物によって一生を台無しにすることがないように、見守っているんだということを覚えておいて下さい。また、いつか、シンナーや覚せい剤のような薬物をあなたに勧める人が出てきた時に、今日の話を思い出して、「ダメ。ゼッタイ。」という勇気を持ってくだされば、こんなうれしいことはありません。
どうもありがとうございました。
****************************
藤井由幸
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土曜日, 2月 7, 2009, 11:39 AM - 2009年02月
この不況の中、私はある大きな決断をした。既存の事業が先細りとなる中で、新規の事業に活路を見出すべく、大きく舵を切った。大きな借り入れもしたし、失敗は許されない。私は家内を説得し、自分たちの生活は切り詰めて、土地などの個人資産をすべて事業につぎ込むことにしたのだ。
正月に息子たちが帰ってきたときには、私からこう説明した。
「お父さんは、今やろうとしている事業に全財産をつぎ込むことにした。成功しても失敗しても、事業が大きく残るか、小さく残るかという違いがあるだけで、君たちには財産は残らないと覚悟してくれ。君たちのおじいさんから受け継いだ資産を、事業のために使うというお父さんの我がままを許して欲しい。君たちは、自分で自分の生活を切り開くことを考えてくれ」
すると、長男がこう言った。
「お父さんは、自分のやりたいことをやればいいのではないか。財産とか残らなくても仕方がない。でも、お父さんは、僕たちを立派に育ててくれたではないか。僕たちの中に、お父さんの経営思想みたいなものは受け継がれていると思うよ」
次男も、即座に同意の相槌を打った。私は、自分の好きなように、自分の人生を歩んでいるのだけれど、子どもたちは、それでも「オヤジの背中」を見てくれていたのかと思い知った。そうか、私の知らぬ間に、息子たちはこんなに立派に育っていたのか。私はいい息子たちに恵まれて本当に幸せだと心から感激した。
しばらく後に、日経新聞の「今の政治は何を残すのか」というコラム（＊）に、「戦前に首都・東京の大改造など百年先を見越した国家戦略の重要性を説き続け、大風呂敷といわれた後藤新平が後進に託した言葉がある」ということで、次の言葉が紹介されていて驚いた。
「カネを残して死ぬ者は下だ。仕事を残して死ぬ者は中だ。人を残して死ぬ者は上だ。」
後藤の言によれば、私は「上」にて死ねる資格があるということではないか。気をよくしたのは言うまでもない。そうだ、もう何も恐れることはないではないか。ひたすらに、自分の信念に基づいて行動するのみだ！夕食の鍋をつつきながら、隣にいる家内に元気よくこう言った。
「オレは『人を残した』ということになりそうだし、５０の手習いで始めたオペラも人前で歌える程度にはなるし、こんな亭主は世の中広しといえども、何人もいないやろう。オンリー・ワンやろうなあ！」
すると勢い良い返事が返ってきた。
「オンリー・ワンなんかいらんから、もっと仕事に集中して稼ぐことを考えたらどう！」
あいたたッ！一本やられた。３０年前に結婚したばかりの頃は、あれほどひ弱だった家内がこれほどまでに肝っ玉が据わるようになってきたとは。そうか、オレは子どもたちばかりでなく家内も育て上げたということなのか？！
藤井由幸
（＊）平成２１年１月１８日日経新聞朝刊「風見鶏」
金曜日, 2月 6, 2009, 06:21 PM
もう１年近く前のことになりますが、四日市ライオンズクラブ会員スピーチとして、「私の教育論」と題するスピーチを行いました。少し長くなりますが、その内容を以下に取りまとめてみました。 この中では、最後の英語教育に関する部分が皆さんにとっては一番とっつきやすいかもしれません。1． 謝辞
みなさん、こんにちは。ご紹介を戴きました藤井でございます。きょうは、このような高い席から教育についての私の持論を皆さんに聞いていただく機会をお作り戴いたこと、大変感謝いたしております。私は、,ただいまライオンズクエスト委員長ということで、特に青少年の健全育成を担当させていただいておりますものですから、昨今なにかと話題の多い、教育問題に関心を持っているであろうということで、皆様の前で何か話をしろということになりました。私も、昨年まで５年間、四日市大学でパートタイム、といいますか、ボランティアのような形で英語を教えておりましたので、教育問題には日ごろから関心が深かったものですから、これ幸いと引き受けさせていただきました。きょうは、３０分ほど私の話にお付き合いを戴きまして、それが、みなさんの教育問題についてのお考えを深めて戴くことに少しでもお役に立てれば、この上ない歓びであると考えております。まずもって、どうかよろしくお願い申し上げます。
２．問題提起
さて、教育問題といってもはなはだ範囲が広く、何から手をつけたらいいのかということになると思いますので、問題提起ということで、先ず資料（省略）を見てください。これは、安倍内閣が、おととし９月の内閣発足当初に鳴り物入りで立ち上げた「教育再生会議」の最終報告で、今年の1月末提出されたばかりの出来立てのほやほやです。
全部を逐一見ていく時間がありませんので、まず、４ページを見てください。その左側に、「教育再生会議の主な提言項目」というのがあります。テレビの報道などでも耳にされたことがあるのではないでしょうか。たとえば、
�‘前蕁�体験活動、親の学びと子育てなど、心と体の調和の取れた人間形成
�△い犬疚簑蠅悗梁弍�
��ゆとり教育の見直し、学力の向上
�ざ軌�の質の向上
�コ惺擦寮嫻ぢ寮�の確立
�Χ軌薜儖�会の改革
��大学・大学院の改革
�┝匆饒蹐�かりでの対応
��教育財政の在り方
といったような項目が並んでいます。また、先月には学習指導要領が改訂されて、総授業時間数が一割増えるとか、道徳教育が強化されるということになるそうです。どれも重要なことばかりで、これが出来れば教育問題は全て解決ということになるのかもしれません。ところが、それぞれの項目の右側に書かれている「これまでに国レベルで実現した主な事項」というところを見ると、どれもこれも、ないよりはましかもしれないけれど、枝葉末節のことばかり、ポイントがずれているような気がしています。
たとえば、�ざ軌�の質の向上 という項目の内容を見てください。、・教員免許更新制の導入 ということがあって、それは何のためにするかというと、「指導が不適切な教員の人事管理の厳格化」のためであるという。まるきり、先生を信用してないんですね。私は、逆じゃないかと思うんですよね。マスコミも、先生がちょっと覗きとか、体罰とかすると、ここぞとばかりに大げさにバッシングする。だけども、大半の先生方は、子どもたちをどうやって教育しようかと真剣に悩み、日々葛藤しているというのがほんとうのすがたなんじゃないでしょうか。私はそう思います。
そこで、何人かの先生の奮闘振りがどんなものかを、ちょっと紹介してみましょう。
＜夜回り先生＞
先月の土曜日に伊勢の文化会館で、「夜回り先生」ということで有名な水谷修さんの講演がありました。薬物乱用防止という観点で、伊藤藤治ライオン、佃ライオンとともに｢夜回り先生｣の講演を聞いてきました。この水谷先生は横浜の夜間高校の社会科の先生として、暴走族や薬物乱用常習者、あるいは売春からエイズに感染してしまった生徒たちと直接向き合っていかに苦労をしたか、という話を何人かの実際に指導に当たった生徒の例をひいて話しをされました。もう涙なしでは聞けない話で、私の周りでも高校生くらいの生徒たちがハンカチを眼に当てて水谷先生の話に聞き入っていました。この先生のすごいところは、誰も見向きもしないような、それこそ｢どうしようもない不良生」に、自分の身の危険を顧みずに飛び込んでいって、向こうの世界を見てきたということです。なかなか、普通の先生にはできないことです。でも、この水谷先生も、｢指導が不適切な教員の人事管理の厳格化」という新しい教員免許更新制ものとでは、｢ダメ教師」扱いをされてしまうのでしょう。
＜フルスイング＞
土曜の夜９時にＮＨＫで「フルスイング」という学校のドラマをやっているのですが、先日見たときは、英語のダメ教師が帰国子女にネイティブの英語で質問されてそれに答えられずに自己嫌悪に陥ってしまうというストーリイでした。ご覧になった方もあるかと思いますが、結末は、主人公の高林先生というプロ野球上がりの先生に励まされて自身を取り戻した、そのダメ教師が自分をいじめた帰国子女と最後には心を通わせるというハッピーエンドでした。たわいない話なんですが、私などは涙もろいものですから、ぼろぼろと涙をこぼして、女房から「あんた、何してるの」といわれる始末でした。それは、いいんですけれども、実際のところ、自分で教壇に立った経験からも、現場で生徒たちの間に入って悩みを抱えている先生は本当に多いんではないかという気がします。ある統計では、精神的な悩みを抱えている先生は、全国で何万人もいるということです。こういう教員を「ダメ教師」ということで「免許更新制」などという篩いにかけて排除しようというのは、到底納得できることではないと思っています。
<教員の質＞
教員の質の向上を言うのであれば、もっと「教員に投資をする」という発想が必要だと考えています。先週公表されました｢学習指導要領の改訂版。これは、10０ページ以上もある大部なものですが、それでもって、教師をがんじがらめに縛り付けるのではなくて、一人一人の先生の能力を高めて、その先生の自主性、主体性にある程度授業内容をゆだねるということが、教育改革の中で一番大切なことではないかと思っているんです。それが、｢地方分権」の基本でもあります。文部省のお役人に任していてはダメなんです。
そのために、先生に投資をする、具体的にどういうことかというと�‖膤悗龍軌�養成課程（教育学部）などで少なくとも半年間の教育実習を必須用件とする、あるいは��教育専門の大学院卒業を教員免許の用件とする（これには、経過措置が必要ですが）�６軌�資格をとってからも、定期的に「教員指導官」による研修をうけさせ、教え方の技術の向上を図る。など、「ダメ教師を排除するよりは、教師全体の教える技術を高め、自信を持って指導に当ってもらう、ことを目指したほうがよっぽど合理的だと思います。・・・実は、教育レベルが高いということで知られるフィンランドではまさにこのような政策をとっていて、教員の待遇のよさや、周囲から尊敬の念を持って見られる社会的な地位の高さから教職に人気が出て、大学の教育学部は常に１０倍以上の倍率になる人気学部になっているのだそうです。そこまで教育に熱が入ってくればしめたものですね。 このことも、２−３週間前のＮＨＫの「クローズアップ現代」という番組で紹介されていました。
＜都留重人さん・・・若者の志＞
おととしに９４歳で亡くなられた、元一橋大学の学長で経済学者の都留重人さんが、８９歳の時に書かれたのが、「２１世紀 日本への期待」と題されたこの本（本の現物をお示しして）ですが、この中で、日本の青少年の意識について大変心配をしている件があります。 ２０世紀末の２０００年７月に「日本青少年研究所が、日本、韓国、アメリカ、フランスの中高生を対象に生活意識などの調査をしたところ、「２１世紀は人類にとって希望に満ちた社会になるか」という問いに対して、アメリカで８６％、韓国で７１％、フランスで６４％の多数が「そう思う」（つまり希望に満ちた社会になる）と答えているのに、日本では逆に６２％の過半数が「そう思わない」（つまり、未来に希望が持てない）と答えているというのです。また、「人生の目標は何か」という問いに対しても、日本では、「人生を楽しんで生きたい」という回答が多く、希望職業でも「公務員」「会社員」といった回答が多く、アメリカ、フランス、韓国で「社会的地位や名誉」を人生の目標と考え、「医者」、「弁護士」などの職業を希望する生徒が多くいるのと際立った対照を示している、ということです。つまり、日本の中高生は、ほかの国に比べて未来に希望が持てないので、公務員などのような気楽な職業について、人生を楽しんで生きることを一番に考えている傾向が強い、ということが浮かび上がってくるというわけです。まあ、医者や弁護士ばかりが立派というわけではありませんが、少なくともそういう専門家になりたいという「志」があるのとないのとでは、気持ちの持ちようが違ってくると思うのです。
私も、四日市大学で英語の講師をしておりました時に、一年の授業の始まりの日に学生に教室でお互いに自己紹介をさせるということを必ずやりました。そのときに、「What's your dream in the future？」「My dream in the future is・・・」（「将来の夢はなんですか？」「私の将来の夢は・・・です。」）という文章を即興で言わせていたんですが、現実的というかなんというか、「サラリーマン」と言ったり、「夢はまだ決めていない」という答えが多かったことが印象に残っています。若者が「将来の希望が見えない」と言うということは、国の未来にとって本当に寂しいことです。
これといって天然資源のない日本にとっても、「人材」というのが唯一の資源といえるのではないでしょうか。明治維新以来その唯一の資源のおかげで、先進諸国に経済的にも追いつき、追い越してきたということを忘れてはならないと思います。ことしは、紫式部が源氏物語を書いてからちょうど千年に当たるということですが、このような高い文化的な伝統をもった国というのは、世界中どこを探してもほかには見当たりません。その伝統的な文化に支えられて、庶民の文化が花開き、明治以来の一般の教育熱につながっていったんでしょう。
「国家の品格」というベストセラーを書いた藤原正彦さんが、去年の秋に四日市で講演をされた時に、たまたまそのお話を伺う機会があったのですが、「明治になって、ヨーロッパ人が日本に来て一番驚いたのは、その自然の美しさと共に、日本人の庶民の持つ教養と規範意識（モラール）の高さだった」というお話をされたことを思い出します。明治の初めころの話ですよ。あるイギリス人が，大井川だったかどこかの川を渡し船で渡ったときに、いくらだと尋ねると，船頭が『八文です』という。『ご苦労だったからチップをふくめて十文とっておけ』というと、『八文以上はびた１文もらえない』といって、チップの受け取りを拒否したことに、このイギリス人はとても驚いたという話です。そのイギリス人が言うには、もしこれが中国だったら、（と中国を引き合いに出して悪いのですが）川の途中で船を止めてあと十文よこせと言われることを覚悟しなきゃいけないとこなのに、といって、日本人の心の美しさ、道徳心の高さにいたく心を打たれたということでした。こういった庶民の文化レベルの高さというものがあったからこそ、日本はアジアでほとんど唯一、当時の欧米列強諸国の侵略を免れたのだろうし，その後の目覚しい経済発展も達成できたのではないでしょうか。
ＢＣ級戦犯として処刑された、名古屋の陸軍中将の話
＜考える力＞
教育の中身の話になりますと、よく言われるのが、子供たちの「考える力」を伸ばしてあげる教育、ということです。教育熱心だということで知られるフィンランドについて言いますと、フィンランドでは「子どもたちの考える力が国の未来を拓く」という考え方で、国家レベルの教育政策を推し進めてきたわけです。ＯＥＣＤが２００６年に実施した、国際的な学習到達度調査の結果、読解力部門で１位（日本は１４位）、数学的応用力部門で２位（日本は６位）になっています。フィンランドの教育水準の高さというのは，たまたまそうなったのではなくて、１９９１年のソ連の崩壊以降、国が深刻な不況に陥ったために、それを克服する手段として、教育に投資し、「人を育てる」ことを最大の政策目標とする「国策」として積極的に取り組んできたという事情があったということです。日本も明治以来そういう教育重視政策を押し進めてきたのですが、最近はどうもそのタガが緩んできている。何がどう狂ったか分からず、やれ、「ゆとり教育だ」、いや、「ゆとり教育の見直しこそ必要だ」などと、喧々諤々の議論になっています。先ほど紹介しました「国家の品格」の藤原さんは、「小泉元首相が、改革の名のもとに経済至上主義を進め、そのために、目先の経済の成長よりもずっと価値のある『日本の伝統的美意識』、弱者をいたわる『惻隠の情』といった、かけがいのない武士道精神を破壊しつつある」と、怒り心頭に語っておられました。
「近頃の子供は我慢が足りない」とか、「どうだ、こうだ」という話をよく耳にしますが、それは、子供に責任があるわけではなく、むしろ、「子は親の姿を映す鏡だ」と思わなきゃいけないのではないでしょうか。
「考える力」を試そうと思って、学生たちに、たとえば「事実](fact）と「真実」(truth)の違いは何ですか？と問うてみるのですが、日本語でもなかなか簡単には答えられません。みなさんなら、「自分のこの二つで見えることが真実だ」ときっとおっしゃることでしょう。しかしですねえ、ちょっと皆さんを混乱させてしまうかもしれませんが、脳科学者の先生からいわせると、そもそも人間が目で見ていることは、真実ではなくバーチャル、つまり仮想の世界なのだといいます。というのは、人間の見える光というのは、科学的にいえば、「この水晶体を通って網膜に映る光の像を脳に伝達する」とまあ、こういうことになります。人間が見えるのは、実は、４００ナノメートルから７５０ナノメートルの波長の光、青から、赤までの七色しかないのですが、自然界に存在する光は無限の波長の広がりがあって、人間はそのごく一部しか見ていない。しかも、網膜の真ん中はカラーですが、端の方はモノクロにしか見えないはずで、をれを脳の力の想像力で補って、全体をカラーとして認識しているのだそうです。その人間の見ているごく一部の事象が、全体を代表しているかどうかは厳密には言い切れないというわけです。ちなみに、虹は七色と言いますが、科学的に厳密に言うと、七色の帯があるわけではなくて、無限に少しずつ変化しているのです。ちなみに、７色に分類しているのは、日本だけで、多くのヨーロッパの国では５色とか６色に分類したり、沖縄では、明るい色と暗い色の２色に見ているということです。虹の中にある「赤色」も「青色」も事実には違いないけれども、どれが最も全体を表す表現、つまり「真実」に近いか、ということについては、どうしても主観的な判断というものが入ってくるのです。
「行列のできるナントカ」というテレビで格好よく世相を切る橋下徹弁護士や、地場の農産物を必死で売りまくる東国原宮崎県知事の姿をテレビを見ていると、知事としてきっと我々庶民の期待することをやってくれるに違いない、と思ってしまいますし、また、コメンテーターがそのように誘導します。テレビに映る姿が彼らの真実の姿を現しているのかどうかということは、よく見極めないとダメだということです。そうでないと、青島幸男元東京都知事や、横山ノック元大阪府知事の時のような、これといった業績を残せずただ借金を増やすだけの人を知事として奉るだけという衆愚政治を招いてしまいます。大人がダメなんですから、これからは子供たちに頭を鍛えてもらうほかありません。
３．教育問題解決への道すじ
そこで、これまでのお話で、子供たちの学力の低下ですとか、意識の低さ、将来への希望のなさ、など歴史的な時間の流れから見ても、世界中の国々との比較という地理的な広がりから見ても、つまり、縦から見ても、横から見ても、教育をめぐって様々な問題が山積しているということは、わかっていただいたような気がします。では、そんな大きな問題を、われわれがどう解決したらいいのか、そもそも、我々のような地域の一般人にそのようなことを解決するすべがあるのか、ということになると、はなはだ戸惑ってしまうということになるのではないでしょうか。でも、私は、「それはある」と思います。
今まで、非常に大きな視点から、教育にまつわる問題を考えてきたのですが、日本には、「着眼大局、着手小局」という言葉があります。大局的な見地から見て考え、身近な小さなことから着手する、とでもいったような意味でしょう。これをやればいいんだと思います。英語でも最近「global と local を合わせた glocal という言葉が使われることがありますが、「着眼大局、着手小局」と全く同じ意味でありまして、地球規模で発想して、小さな地域から行動する、という意味に使われています。
具体的なことを言いましょう。私の家は四日市市内の羽津小学校のすぐ近くにあるのですが、毎朝、子供たちの通学時間帯になると、どこからともなくお母さんたちが街のかど角に黄色い旗を持って立ちます。子供たちの交通安全のために、父兄の皆さんが協力し合って立ち上がっているのだろうと想像しています。お母さんたちの顔触れは、毎日かわっているのですが、中には、ボランティアの方でしょう、毎日、雨の日も風の日も同じ場所に何年もの間立ち続けている方がいらっしゃいます。子供が通りかかると、「おはよう！」っと大きな声で呼びかけているのが、車の窓越しにも聞こえてきます。私は、この方と目が合うと、いつも「ご苦労様！｣と声にならない声を出して、軽く会釈をするんです。子供たちは、こういう人たちの存在について、何も感じることはないでしょうか。いえ、いえ、子どもたちは、自分たちの安全を見守ってくれている人が周りにいるのだ、オジサンが自分たちを守ってくれているのだ、ということをそれとなく感じてくれているに違いありません。皆さんも、ご自身が小学校に通っていた時のことを思い出していただけませんか。きっと、木登りをして隣のおじさんに叱られたことや、暗くまで遊んでいて、周りの大人たちから「もう暗いから、早く家に帰れよ！」と言われたことが一度ならずあったことでしょう。私は、これこそが「地域で子供たちを育てる」ということの基本ではないかと思っています。家で親が子供の教育をし、学校で先生が子供たちに知識・知能を教え、社会への橋渡しをする、そして、地域は、先生や親たちが子供を育てやすい環境をそっと作ってやる、というのが自然な姿であり、理想の姿でもあるのではないか、と思います。
＜ライオンズ・クエスト・・・ライフスキル教育>
そこで、当クラブも力を入れようとしている｢ライオンズ･クエスト｣について、少しお話したいと思います。ライオンズ・クエストについては皆さんもうよくご存じで、釈迦に説法かもしれないのですが、カタカナの言葉は非常にイメージがわきにくいんで、一言で言うとこういうことになると思います。みなさんは、今それぞれの事業分野で成功して活躍しておられるわけですが、どうでしょう、「中学･高校あるいは大学で勉強した、数学や･理科･社会の知識が直接今の仕事に役立った」という方はいらっしゃるでしょうか？いやいや、授業で覚えたことよりも、同級生との友情や、クラブ活動、先生との人間関係、あるいは、地域の自然や近所のかみなり親父などから、人として生きる道を多く学んだという方のほうが多いんではないですか？私もその一人ですけど。その、「学校に通って、教科書以外から勉強すること」、それを系統化して、教室で体験的に学べるようにしたものが、ライオンズ･クエストの目指す｢ライフスキル教育」だと理解していただいたらいいと思います。つまり、子供たちが日々直面するいろいろな困難な場面にどのように対処したらいいのかということについて、教室であらかじめ訓練する方法を体験として学びとるプログラムだと理解していただけばいいと思います。たとえば、次のようなことをロール・プレイイングなどのかたちで、学級での授業を中心に、学校・家庭・地域で行う教育です。
去年の秋、ライオンズクエストの一環として「薬物乱用防止教室」を常磐中学、港中学の二校で開きましたが、こうした地味な活動が、子供たちに勇気を与えることにつながるのではないかと考えています。資料の ｐ をご覧ください。私たちが、ライオンズクラブとして進めようとしている、ライオンズクエスト・・・思春期のライフスキル教育というのも、こうした「地域で教育を支える」という考え方の延長線上にあって、私たちが、親と先生という子供の教育の担い手に対して、手を差し伸べる形であればそれが一番いいやり方ではないのかなと考えています。そのライオンズクエストの中身についていいますと、子供たちが、日々直面するいろいろな困難な場面にどのように対処したらいいのかということについて、教室であらかじめ訓練する方法を体験として学びとるプログラムだと理解していただけばいいと思います。たとえば、次のようなことをロール・プレイイングなどのかたちで、学級での授業を中心に、学校・家庭・地域で行う教育です。
具体的には、資料のｐ にありますように、８つの単元とボランティアの体験学習からなっていまして、講義を受け身で聴くというのではなく、すぐに試すことのできる具体的なスキルを体験するという形で身につけさせるので、子供たちは、こうした授業に惹きつけられていきます。
�―渋紊里呂犬泙蝓ΑΑ�心と体の成長がアンバランスな子供たちに待ち受ける試練がある
このプログラムを実施した先生からは、「自分の存在をクラスメートに知ってもらえた安心感が生徒の中に生れて、クラスが和やかなムードになります。」という声が上がってきています。
�∨榲�の自信とコミュニケーション・スキルの形成については・・・人の考えを理解し受け入れ、自分の考えを伝える
「５ページ（省略）の下のほうのこの男の子の写真のように「私が主役です」というたすきをかけて、自分のことを仲間に知ってもらうということを実際にひとりひとりやってもらうわけです。実に、楽しそうな顔をしてやっていますね。こんな風にして、自信を高める訓練をするのです。
��心の成長と感情のコントロールについては・・・自分の感情を認識して、適切に表現する
�ねЭ祐愀犬硫�善については・・・建設的な友人関係を築き、絆を強める
�ゲ搬欧励�の強化については・・・自他の家庭の背景を尊重する、家族と充実した時間を過ごす
�μ�物への対処については・・・たばこやお酒、それに薬物の危険性を知らせ、よくない勧めに対処する、つまり、断り方を学ぶ
�Х鮃�な生活のための目標設定については・・・短期・長期の目標設定と挫折への対処法
�┐泙箸�
��ボランティア活動への参加・・・自分の持つ力を人のために役立てる
このライフスキル教育を実施しているいくつかのモデル校からの報告では、「子どもたちが自分にとって大切なこと、自分にもできること、それに気づいたときに、自分の力で考え、生き生きと学び始める」ということが言われているそうです。
私自身は、このプログラムのセミナーに参加した程度で、まだライフスキル教育について知りつくしているわけではありませんが、ワークショップなどにも参加して、このプログラムを市内全校にまで広げて行ければいいのではないかと考えています。また、先に申し上げた教員支援プログラムとも合わせて、今年の年末に予定されている市長選挙の出馬予定者に、これからしっかりと政策提言をしてゆきたいと考えています。
実際に、子供たちの「考える力」を伸ばしてやる方法については、各地の学校でいろいろな取り組みが試されるようになってきています。
�‘別攜�瀬尾中学校： テーマを考えて、半年がかりで物語や夢の詰まった、１枚の絵をつくる・・・歴史や「なぜ」を調査
�▲戰優奪察Г�化け屋敷の絵を３枚見せて、４枚目を想像して絵と文章を書かせる
��オペラ歌手の中島啓江：子供音楽教室で、どうやったら大きい声が出るのか、子供たち自身に考えさせ、実際にやらせてみる
繰り返しになりますが、こういった様々な取り組みについては、文部省の「学習指導要領」というお仕着せのプログラムではなく、現場の先生たちに力を与えて、その先生たちに自発的な工夫をしていただけるような環境を作ってやるのが正しい姿ではないかと考えています。
＜英語教育＞
最後に、英語教育について一言触れさせていただきたいと思います。
英語教育はできるだけ早くスタートしたほうがいいという通説があって、実際、小学校５，６年生から英語学習を始めるという段取りになっているやに聞きます。私は、正直なところその考えにはあまり賛成できません。それはなぜかというと、理由が二つあります。ひとつは、元英語教師の私が言うのもなんですが、小学生にとっては、「もっと他にまなばなきゃならないたいせつなこと」があるということです。四日市大学の学生にもいつも言っていたんですが、勉強しなきゃならん一番大切な言葉は、国語、その次はコンピューター、三番目に英語だ、と言っているんです。母国語である日本語を、まず、しっかりと話せるようにすると言うことが何よりも大切だと思っています。ライフスキル教育の中にも入っている「コミュニケーション能力」が、小学生ではまだまだ確かではありません。自信を持って自分を表現する力、相手の立場を理解して、建設的な友人関係を築くという力をこの時期につけておくことは、将来の応用力をつけるという観点からも、何にもまして重要な学習題材だと考えています。
もうひとつは、小学校の英語教育が将来の語学力の形成に役立つとしても、実際に今の小・中学校の英語の先生のレベルを考えると、小学生の子供たちが楽しんで英語を学べるほど英語をうまくしゃべれる先生がそれほどたくさんいるとは、とても信じられません。手前みそになりますが、私は「まあ、そこそこ」の英語を話せると思っているのですが、たとえば、四日市の中・高の先生で、私と同程度にネイティブに近い発音で、外国人の入ったパーティなどで英語をしゃべれる人が、いったい何人いるでしょうか？
そんな状態で、子供にきちんとした英語になじんで英語をすきになってもらえるはずがないじゃないですか！それよりも、先生たちの英語教育の方が先だと私は思います。ヨーロッパ大陸の非英語圏、たとえば、フィンランド、ノルウェイ、スウェーデン、デンマークという北欧４国や、オランダ、ベルギー、スイスなどでは、先生たちはイギリスの語学学校に派遣されたりして、ネイティブ・スピーカーから頻繁にトレーニングを受けています。また、オランダ・ベルギーなどでは、イギリスのBBCのテレビ放送が見られるということもあって、一般に英語のレベルが非常に高いです。ですから、ビジネスマンの多くは、少なくとも私程度には英語がしゃべれるんです。
日本の英語教育の最大の問題は、中学校から大学まで１０年間英語を勉強しても、なかなかまともに英語がしゃべれるようにならない、というコミュニケーション能力の欠如ということです。これは何も四日市大学に限らず、東京大学や京都大学を出た人も同じです。私が言うんだから間違いありません。私自身もそうで、大学を出たばかりのころは、ことしゃべることにかんしては、ほんのカタコトしかダメでした。今の英語力は、大学を卒業してから、英会話学校に通ったり、留学したりして身につけたものです。誰とはいいませんが、一流大学を出た日本の総理大臣が、海外に出て英語でスピーチもできないというのは、まことに情けない限りで、私に言わせれば、それは、「日本の英語教育がいかに駄目か」という恥をさらしに行っているようなものとしか思えません。
日本の英語教育の何がダメなのかというと、これも二つあって、ひとつは、英語の先生が英語をしゃべれない。私が言うのは、コミュニケーション力ですよ。多国籍企業などでは、よく外人を含めた取締役会などが開かれる場合がありますが、そういった場で、外人と対等に議論をしようとするには、英検１級程度の力が必要だと思います。
もう一つの問題は、日本の英語教育は、受験英語にバイアスがかかりすぎているということです。受験英語で読み・書き・文法はできるようになるかもしれませんが、「聞く」「話す」というコミュニケーションにとって必須のことがおろそかにされているのは、本当に驚くばかりです。英語は、高等な学問ではありません。単なる、技術･道具です。だから、車の運転をしたり、スキーをやったり、野球をしたりするのと同じで、個人差はありますが、練習しさえすれば必ずある程度はうまくなります。教え方の下手な人からではなく、うまい人から教われば、効率よく進むということになります。何せ、アメリカに行ったら五つの子でも誰でも流暢に英語が話せるんですから。
したがって、日本の英語教育を画期的に改善する処方箋は、はっきりしているんです。それは、「大学・高校の受験科目から英語を外す、と同時に、中学・高校の英語教師のコミュニケーション力を再教育する」ことです。これをやれば、何も小学校から英語教育をしなくても大丈夫です。受験については、たとえば高校受験資格として英検３級、大学受験資格ならば、それぞれの大学がそのレベルに合わせて英検２級、準２級とかTOEIC５５０点以上とかを設定すればいいでしょう。中・高生はきっと英語が「しゃべれる」ように、必死になって努力すると思いますよ。
知事や市長のような方にお願いしたいのは、たとえば三重大学と掛け合って英語を試験科目から外してもらうと同時に、県立高校についても同様に入学試験科目から英語を外すということです。それと同時に、英語教師の再教育に、ネイティブの講師を雇うなどして、大きな投資をしてほしいですね。そうすれば、おそらく県外からも三重県の公立高校・大学への入学希望者が画期的に増えることになると思いますよ。誰か、このアイディアを買っていただけませんでしょうかねえ。
ということで、ちょうど時間が参りました。どれだけ皆さんに興味を持って戴いたか分りませんが、昼食後の一番眠い時間に、多くの皆さんに私の話を聞いていただけたことを大変光栄に思っております。これから、ライオンズ・クエスト運動を通してささやかな地域貢献ができますよう、微力を尽くしたいと考えております。 どうも本日は、ご清聴ありがとうございました。
藤井由幸
（注）本稿は、平成２０年３月１８日に四日市ライオンズクラブの会員スピーチとしてロワレ２１四日市にて行った講演録をもとにして加筆・修正をしたものです。
水曜日, 1月 28, 2009, 06:45 AM
三年前から家内と二人で積立預金をして、結婚３０周年の記念に海外旅行に行こうと計画していたものの、景気の悪化の波には抗し切れず、このお正月は沖縄旅行でお茶を濁すことになった。 でも、実際に行ってみるとはじめての地はとても新鮮で、レンタカーを借りて、本島内をくまなく見て回ることができた。戦争の傷跡を今に残すいろいろな施設や大きくいばってのさばっている米軍基地と、海岸や透き通った海の水の美しさとのアンバランスがこの島の成り立ちを象徴しているかのようだった。真っ先に訪ねた「ひめゆりの塔」には資料館が併設されており、そこで、語り部のボランティアをしておられる８０代の老婦人の話を聞くことが出来た。落ち着いて静かに話されるその口をついて出てくる言葉は、とても文字にすることは出来ない悲惨なものだった。数多くの人が自分の周りで死んでゆくのを目の当たりにし、人間としての尊厳を打ち砕かれた彼女は、戦後も長らくの間自分の体験を人に話すことが出来なかったという。もっともなことだ。
沖縄にあって平和の大切さを実感するとき、逆に、今のように日米安保体制のもとで、いつまでもアメリカというよその国に自国の防衛をお世話になる形でいいのかなと感ずる。日本は、近隣諸国に脅威を与えることなく、また、武力で他国との紛争解決を図ることを放棄しつつ、自国の防衛責任を自ら果たすことを模索すべき時期にきているのではないかと、テレビに大写しされるブッシュ大統領の顔を見て思った。次にこの人のような暗愚な人がアメリカの大統領になったときには、アメリカという外国に頼るばかりの日本は本当に危ない。今のように、日本の指導者もアメリカよりもっと悪いということだってあり得るのだから。・・・これは、大いなる皮肉のつもり！
ところで、最近２０代の若者や、年金世代の老夫婦が大挙して沖縄に移住してくるという話を地元の人に聞いた。若者はアルバイトをしながらダイビングを楽しみ、老人は温暖な気候の下で余生を楽しむということらしい。言葉の通じない東南アジアで暮らすよりは、事前の一番美しい冬知らずの沖縄のほうが過ごしやすいということか。それもまた考えてもいいかなと、家内に目配せすると、強く首を横に振られた。
藤井由幸
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